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亀井雅文 | Masafumi Kamei

2011年にGALLERY SPEAK FORで「タテヨコナカミ」展を開いた時、亀井雅文さんは会社員経験を経て画家の道を歩み出し、まだ2年足らず。しかし、巷でブームの写実画とはひと味違うアプローチを感じる緻密な油絵と、美しい色彩設計の連作などで、多くの新しいファンを獲得しました。その一方で、ずっと温めてきたアクリル画のアイディアがあり、試行錯誤のすえ広く公開できるようになったのが2013年。それは、絵具をパネルの上にふっくら盛り上げた半レリーフ的な抽象画です。ときにコラージュ手法も取り入れて具象画の強さも援用しつつ、色と形状でも魅了できる面白い作風で、「アイがある」展(2013年12月20日〜2014年1月15日 ※年末年始休廊あり)は、それらに絞って再びGALLERY SPEAK FORで展示するもの。今、進展めざましい亀井さんが、音楽に深く関わった青春時代について。なぜ会社員は絵に引き込まれたのか。そしてたどり着いたこのアクリル画法に込めたコンセプトなどを、ご自身に詳しく伺いました。

photo : Kenta Nakano


 

音楽が揺さぶった表現衝動

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どのようなプロセスで絵を制作していますか?

亀井雅文(以下、M):
ひとつは油絵で、古着など身につけるものをモチーフに写実的に描いています。これは制作時間も長くかかりますね。シワなどニュアンスが描きやすいということもあり、古着を描くことが多いんですが、ひとつのモチーフに対して細密に掘って突き詰めていく。服を描いていても自画像のような部分があり、気持ちや記憶など、表面に宿るもの以外のものをあぶり出す作業をやっていると思うんです。もうひとつは、ここ数年アイディアを温めてきたアクリル画。設計と色決めまではパソコンで行い、次にアクリル画剤を独自のバランスで調合します。絵具を大量に使い、板パネルのうえに盛り上がるような仕上がりにして、普通の筆ではなくゴム筆を使うのですが、一度絵具をのせて乾くと変更が効かない描き方で、想定どおりの色が出ずにボツになる絵もたくさんあります。

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アーティストの道を選んだきっかけは?

M:
小さい時は絵を描くことが本当に好きでした。小学生の頃、年賀状に絵を描いて友だちに出すのが好きで、マンガの模写でしたが、異様に細かく描くんです。もらった子の親が、なんでこの子はこんなに一生懸命に描くのかと(笑)驚いたそうです。でも、油絵具に触り始めたのは桑沢デザイン研究所を卒業してから。桑沢を受験する時にデッサンとか基礎的なことはやりましたけど、桑沢ではドレスデザインを専攻していましたし、スチャダラANIと同じクラスで、Boseも仲間だったりして、一緒に音楽をやったりしました。ただ、それをプロとしてやっていこうという気はなくて、卒業後しばらくは普通の会社員に過ぎなかったんです。ある時、たまたま地元(静岡)で友だちのミュージシャンのイベントでDJを頼まれた、その帰り道かな。やっぱりクリエイティブをやりたい、と。止むにやまれぬ衝動みたいなものが沸き起こってきた。音楽に代わる何かがやりたい。本格的に絵を勉強してみようと、武蔵野美術大学の油絵科に社会人入学することに決めたんです。油絵具で写実的なタッチ、という今のスタイルのひとつは、2009年に卒業制作で優秀賞をいただいた頃から続いています。

油絵と別の発信力あるアクリル画

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どんなカルチャーから影響を受けてきましたか?

M:
自分の中では音楽のウェイトが大きくて、その中でもYMO(イエロー・マジック・オーケストラ)が大きいんですよ。YMOを中心にしたカルチャーが本当に好きだったし、ニューウェイブやテクノ、そこに80年代頃に流行っていたポップアートからの影響が入ってきた感じです。小、中、高校生ぐらいで興味を持っていたものが、いまだに続いていますね。ポップアートの思想を現代に生きる自分として表現したのが、僕のアクリル画シリーズだと思っています。油絵でもそういうことをやりたかったけれども、技法が古典的なのでどうしても行き着けないジレンマがあり、アクリルという今の素材、石油系素材を使う形になりました。3〜4年くらい前から実験的なことはやっていたんです。最初はもっと原始的に、ただアクリル絵具をぼこぼこに盛り上げて迷彩柄を描いたりしただけでしたが、試行錯誤を繰り返し、作品として発表できるようになってきたのが今年に入ってから。アーティフィシャル(人工的)な画材で、でも描くモチーフ、視線の先には花や動物とか。テクノの延長にある概念だと思いますね。

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今回の展覧会は、どのようなものになりますか?

M:
アクリル画シリーズだけで展示します。前回(「タテヨコナカミ」展)とは全然違いますから、それなりのプレッシャーはありますね。目をモチーフにしたものがいくつかあって、タイトルを「アイがある」としました。アニメっぽい目なんですけど、世の中に溢れかえっているパソコンや携帯などのディスプレイ、ウィンドウなどと目をオーバーラップさせて描いていて、今あるいろんな出来事、いいことも悪いことも自由に捉えて表現していきたいと思っています。

実際のモノが持つ力を、今に

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油絵と違って、社会問題にかけたような絵もありますね。

M:
細かく見ていただくと、2パターンくらいあると思います。ひとつは世の中のできごとを見つめ直すようなもの。ミュージシャンでもそうだと思うんですけど、社会への表明を表現のなかに織り込んでいくというのは、僕はアーティストとしてひとつの役目でもあると思うんです。もうひとつは壁にかけるタブロー、絵画として、素材や色彩、描画のそれぞれのハーモニーをいい形に作り上げることを考えたものがあります。どちらも、このアクリル画シリーズでは凹凸やツヤなどの物体感、質感こそ核心です。今の世の中には「イメージ」が溢れかえって、何が本当のことなのか判断がつかないというのが、今の僕の実感なんですよ。あまりにも実態の分からない情報が多過ぎるし、ニュースなどでも極端な話が多いですよね。だから、実際に自分の目で確かめたものしか分からないという気持ちがあるんです。この絵の実物だけが持つ力は、ある意味で虚構のイメージ重視の世に向けたメッセージでもあると考えています。深いんですよ(笑)。

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近い将来の目標をお聞かせください。

M:
GALLERY SPEAK FORでの前回の個展では、友人などの他に、海外からのお客様など知らない人が作品を買ってくださって、だいぶ励みになりました。買ってくださった方が、部屋に飾った様子を写メで見せてくれたりして、嬉しかったです。油絵のほうも、(スチャダラパー副読本)「余談」の表紙用にまた大きなものを描くこともあると思いますし、ずっと継続して描いていきます。今はとりあえず個展でお見せするこの新しいアクリル画シリーズが、広く認知されていくような活動をやっていきたいですね。まだ始めたばかりですが、今後は大きいものも描きたいと思っています。チャンスがあれば海外での個展もやってみたいですね。

亀井雅文(アーティスト)

1968年、静岡県生まれ。桑沢デザイン研究所ドレスデザイン科、武蔵野美術大学造形学部油絵学科卒業。桑沢在学中にスチャダラパーのオリジナルメンバーとして活動した。また、ナイチョロ亀井として現かせきさいだぁのDJを担当。その後会社勤務を経て、大学で正式に美術を学びアーティストへの途を志す。「GEISAI#14」にて中村ヒロキ賞を受賞。スチャダラパー副読本「余談」の装画を手がけるなど幅広く活動中。最近のおもな個展に「タテ ヨコ ナカミ」('11年、GALLERY SPEAK FOR)「CAMOかも。」('13年、富士市 HINA-KAGU)がある。

http://m-kamei.com/


「アイがある」展についてはこちら
http://blog.galleryspeakfor.com/?eid=612