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布川愛子 | Aiko Fukawa

ふと見かけたステーショナリーの、かわいい絵が頭から離れない。そんな経験は誰にもあるはずです。布川愛子さんは広告や本の装画などイラストレーションのお仕事を手がけながら、自前の紙ものブランドを展開して、ステーショナリー女子たちの静かな熱い支持を集めている新鋭です。特に、長い耳や尻尾もあったりする動物人間たちの絵は、大人気。優しい世界観に包まれ、ちょっとクスクス笑いたくなるファンタジックで心地よいシーンが、ふんわり繊細に描き込まれています。これまで雑貨屋さんやカフェで定期的に絵を発表してきましたが、GALLERY SPEAK FORでの「VIEW POINT」展(2013年1月18日〜2月6日)は、人気アーカイブと新作を総合的に構成する、これまでで最大規模のものに。ニューヨークのセントラルパークで絵を描いた体験が、新しいインスピレーションを与えてくれたそうです。代官山を訪れてくれた布川さんに、動物人間たちの誕生ストーリーや、展覧会に込めた気持ちを伺いました。

photo : Kenta Nakano


 

極細の筆+水彩で、動物の毛並み感まで

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どのように絵を描いているか、教えてください。

布川愛子(以下、A):
おもに水彩絵の具で画用紙に描いています。お仕事であれば、モチーフはそのオーダーに合わせたものになりますが、よく描くのは植物とかリボン、食べ物など自然物が多いですね。オーダーによっては鉛筆画をフォトショップで加工して提出することもあります。最初はキャンバスにアクリルグァッシュで描いていたんですけど、色の表現が思うようにいかず、子どもの頃に使っていた水彩絵の具を使ってみたらすごく自分に合っていたんです。柄の直径が3ミリくらいの一番細い筆の毛先を使って、動物の毛並み感まで描くのが好きなんですけど、それに合っているのが水彩だったんです。また絵と関連して、紙ものステーショナリー類のブランド"ai"も展開しています。レターセットや包装紙が大好きで、ずっとためていたんですが、その魅力が忘れられず、展示会用にオリジナル封筒を手作りで作ったら好評で。お店などともご縁ができ、次第に工場で量産できるようになりました。今は、その紙ものがきっかけで私の絵を知っていただけることも多くなりましたね。

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イラストレーターになったいきさつ、受けた影響は?

A:
子どもの頃から絵を描くのが大好きでした。学校をずる休みして布団の中で絵を描いていたりしたほどです(笑)。高校時代は音楽も好きだったので「ロッキングオン」や「スタジオボイス」など雑誌を読んだり、洋書をタワレコで立ち読みしたり、MTVも含めて、海外のユースカルチャーへの憧れがすごくありましたね。美術館などで巨匠の絵もちゃんと見ていました。今も好きな作家としては、葛飾北斎やパウル・クレー、アリシア・ベイ=ローレル、デビット・ホックニー、アンディ・ウォーホルなどです。二浪して芸大のデザイン科に入りましたが、卒業後すぐにアーティストになるというのはできないと思っていたので、デザイン事務所のアルバイトも経験しました。絵を描く担当になることが多かったんですが、時間給で描かなければいけなかったので、関わり方が中途半端で。徹夜してでももっといい絵を描きたいと思うようになりました。その頃ちょうどファイルを送ったブックデザイナーの名久井直子さんから、幸運にも初めてお仕事をいただいたんです。それが本の装幀のお仕事で、それからいろいろと依頼をいただけるようになり、絵の道一本でいこうと決めたのが2010年のことでした。

気持ちのいいものだけを描いていきたい

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画風はどのように変わりましたか? 動物人間の絵はいつから?

A:
小学生の頃は友だちとギャグマンガみたいなものを描いていて。「りぼん」に応募したり(笑)。女の子を描くのが好きでしたね。あとでイラストレーションとして世界観を持った女の子を描きたいという時に、マンガのトーンから離れるのがとても大変でした。動物人間の絵には、具体的なエピソードがあるんです。私の仲の良い友人同士の結婚式でウェルカムボードを描く機会がありまして、ただふたりとも、どうしても人間で想像できず動物でイメージができたんです。奥さまは派手な格好が好きでカラフルだったから鳥みたい、旦那さまのほうは顔がすっとして狼みたいだなと思っていて。それを絵に描いたのがきっかけで、動物人間の絵が始まりました。自由に描かせてくれた友だちがいたからこそ、という感じですね。動物を描くのは、動物が大好きなので近寄りたいんだと思います。動物と一緒にいたい、同じになりたいみたいな(笑)。でも以前描いていたのは四本足でした。動物でも二本足で人間の姿をしていれば大好きな洋服の絵も描けるし、好きなものを両方組み合わせて描けるんです。

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今回の展覧会の構想を教えてください。

A:
私は、こういうところに行ってみたいとか、あったらいいのにと思う場所、状況などを描いていて、タイトルの「VIEW POINT」にはそうした意味を込めたつもりです。私は絵に、ネガティブなメッセージは入れたくない、100%ポジティブなものを作りたいと思っています。いろいろ大変な世の中なので、自分から出すものくらいは一点の曇りもない、気持ちのいいものを作っていきたいと思っているんです。また、新作から以前のもの、仕事で描いたものなど全部一堂に、展望台から気持ちよく眺められるような展示にしたいと思っています。いろんなタッチを使い分けて作品を描いているので、どのタッチということに縛られずに、全部を私の世界として受け止めていただけたらいいですね。また、展覧会に合わせてバッグやクッション、ノート、タンブラーなどを作ります。バッグとクッションは、絵にシルクスクリーンと刺繍でワンポイント付けたものを考えていて、シルクも刺繍もプロの作家さんにお願いしているので、自分でも仕上がりがとても楽しみなんです。

新しいリズムをくれた、ニューヨークでの体験

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展覧会のメインビジュアルは、パノラミックな絵ですね。

A:
2012年の夏の終わりにニューヨークに行ってきました。セントラルパークで2日間くらい、レジャーシートを敷いて絵を描いていたんですけれど、ふだんとは全く違う感覚で絵が描けたんです。いつも机に向かって描いていると、たいてい(背景のない)モチーフだけを描きます。余白が好きだということもあるし、デザイナーとしてのクセで使いやすさみたいなのも考えているんだと思います。でもニューヨークでは、すごくきれいな周辺の中で描いていたので、それも絵の中にイメージとしてどんどん入ってきました。だから今回展示する最近の絵には、背景も入って見せ所がいっぱい作れている実感がありますね。画面の中にリズムが生まれていて。いい感じです。

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海外からのオファーも増えているようですね。

A:
ニューヨークに続いて、今年はオーストラリアで展示をする予定があります。メルボルンにあるショップなんですが、ニューヨークでの展示を見て誘っていただきました。2011年にはパリにあるおもちゃ屋さんと一緒に、3種類くらいおもちゃを作りました。おままごとセットのパッケージとラベル、フェルトのおもちゃのデザインなどです。海外とのクライアントワークをもっと増やしていきたいですね。もちろん、広告のお仕事もどんどんやっていきたい。新しいタッチに目覚めるきっかけになることもありますし、依頼の内容に寄せて描くのは私、そんなに嫌ではないんです。形に残るという点では、店舗の内装などにも興味があります。最近、インテリアのお店と打ち合わせをして、陶器やファブリックなどのお仕事をさせていただくことになりました。例えば、お店の壁に描いたり内装に合わせたクッションを作ったり、もっと全体的なディレクションに関われたら嬉しいですね。そのほうが、より広いイメージの中でお客さまに楽しんでもらえますから。自分のスタイルを決めつけないで、いい意味で時代に合わせてどんどん変わって行けたら楽しいな、と思っています。

布川愛子(イラストレーター)

2005年、東京芸術大学美術学部デザイン科卒業。おもに広告、書籍装画、雑誌、絵本、ステーショナリーなどの絵を手がけている。ルミネ有楽町店クリスマスキャンペーン、マクドナルド「世界の★★★マック」キャンペーンなどの制作に参加。装画を手がけた書籍に、江國香織「真昼なのに昏い部屋」(講談社)、恩田陸「私の家では何も起こらない」(メディアファクトリー)、「すみれノオト / 松田瓊子コレクション」(河出書房新社)などがある。2012年3月に個展「note」(中目黒・MIGRATORY)を開催。自らデザインする紙ものブランド「ai」も展開中。

http://www.nice-nice-nice.com/


「VIEW POINT」展についてはこちら
http://blog.galleryspeakfor.com/?eid=590


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