今城 純 | Jun Imajo
透明感のある優しい光で対象を捉える、今城純さんの写真。ポートレートでは目の前の人物の、ランドスケープでは見慣れた日常の事物の、それぞれ隠された美をファインダー越しに感じとり、丁寧にすくいあげる話法がその「優しさ」の源泉です。前回の「over the silence」では、冬の北欧を旅した作品を編集するなど、定期的に写真集を出すことで発信を続けてきた彼ですが、今年は「earl grey」「milk tea」とを2冊同時にリリースすることになり、「earl grey」の写真を、GALLERY SPEAK FORにて展示します(2012年5月25日〜6月6日)。フォトグラファーとしての道を模索しつつあった頃のモノクロ作品から最新作にいたるまで、今城さんの個性を大きく醸成してきたのは、普通の日常こそ素晴らしい題材、という変わらない確信だったといいます。イギリスの旅の様子や今後の抱負まで、ギャラリーにお越しいただいた今城さんにお話を伺いました。
photo : Kenta Nakano
学生時代から撮り続けている風景
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- ふだん、どのような写真を撮っているのか教えてください。
- 今城 純(以下、J):
- 仕事としては、ファッション誌でのファッションやポートレートの撮影が多いですね。ロケのほうが多いですがスタジオ撮影もあります。自然光で撮るのが好きなので、どちらかといえばロケのほうが好きですね。スタジオの撮影でも、柔らかい光で作ってください、と依頼されることが多いんです。僕の写真集やホームページ、雑誌などで作風を把握された上でのリクエストだと思うんですけれど。作品としては風景を、学生時代からずっと継続して撮り続けています。
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- フォトグラファーになったきっかけは?
- J:
- 大学時代から本格的に写真を学び始めました。在学中は、プロになろうという気はあまりなく、マスコミ関係を漠然と考えていたんです。でも卒業ぎりぎりになって卒業制作に取り組み、それがあまりにも楽しくなっちゃって、このまま写真をやめるのがイヤだなと、撮影プロダクションの募集に応募したのがきっかけでした。本当にゆるい感じ(笑)。すごく志高く、絶対こうなるんだ、という入り口ではなかったですね。いろいろ社会の中で揉まれ、自分のレベルも再認識して、真剣に人生を考えた時に、こうなりたいんだというのを、本当に少しずつですが、自分の作品を撮る中で見出していって。明確になったのが社会人になって3年めくらいです。それからは、もう駆け足でした。僕は目標が決まったらそこを目指して、どんどん実行していくタイプなんです。今まで10年くらい、あっという間に過ぎましたね。
仕事と作品、2つに通底する個性
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- 作品としての写真と仕事の写真。そのバランスはどう調整していますか?
- J:
- 仕事となるといろんな人が関わってきますし、自分の撮りたいものを撮るというわけにもいかないので、100%自分のものになるということは難しいですね。でも、なるべくその差は作りたくない。例えば今はデジタル化社会ですけれど、僕はフィルムのニュアンスが好きなので、なるべくフィルムで撮影させていただくとか、僕の固有のテイストとかけ離れないよう、ポートレートを撮る時でも風景(作品)を撮る感覚に近いものを作っていけるよう常に心がけています。
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- 今回、2冊の写真集を同時に刊行されますね。
- J:
- おもに仕事で撮影した約50人のポートレートと、旅のランドスケープ約90枚、両方の写真集を1冊ずつですけれど、それを見比べれば、より一層つながり、僕自身の持ち味を感じていただけると思います。始めはランドスケープで写真集を出したいと出版社の方に提案したんですが、僕の姿勢をよく分かっていらっしゃる方だったので、2つの範疇のものを一緒に出したほうがより世界観が明確になるのでは、とお話をいただきました。ポートレートのものもいつか出したいと思っていたので、思っていたよりも早いチャンスでしたが、今回同時にお願いすることになりました。
当たり前の日常が一番フォトジェニック
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- 写真展の作品は「earl grey」からですが、どういう内容に?
- J:
- おもにロンドンとその近郊の小さい田舎町で撮影したランドスケープです。昨年、何も決めず急に行っちゃった行き当たりばったりの旅でした。B&Bに泊まったり、帰れそうだったらロンドンに戻ろうかとか、気に入った町があったらちょっと長居してみたり、とか。観光スポットには全然行かないですね。前回の写真展(「over the silence」)もそうですが、僕は田舎町が好きで、その中の何気ない日常、誰が遭遇してもおかしくない風景を自分なりに切り取っていきたいというのが基本にあります。イギリスって曇りのイメージが強いし、よくそういう話も聞いていたんですけれど、僕が行ったときはほぼ晴れで、天気がいいだけで僕はテンションがすごくあがるので、そこに暮らしている人たちにとっては普通の光景だったはずですが、全てがとても魅力的に見えてきました。花ひとつ、道ひとつ、影ひとつにしても、わー、すごいと夢中でシャッターを切りましたね。僕は常々、当たり前の日常が一番、フォトジェニックなんじゃないかと思っています。何かスペシャルなことって、見る側とリンクするのはなかなか難しいんじゃないかというのは、ずっと思っていて。うちの近所でもよく写真を撮りますし、普通に過ごしていることって、ちょっと見方を変えたらこんなにきれいなんだよ、というのを伝えたい。僕は写真に出会えてその見方が分かったというか。みなさんにも、そうした美に気づいていただけたら、と思います。
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- 「earl grey」の世界をどのように楽しんでもらいたいですか?
- J:
- リラックスして楽しんでいただければ、気持ちよさは伝わると思うんです。深いことは考えないで気軽に楽しんでいただけたらと思います。そして僕の写真を、自分の部屋に何気なく飾っていただければ嬉しいですね。本棚でもいいですし、玄関でもリビングでもトイレでも、どこでもいいんですけれど、いつか日曜の午後の光に照らされて、買ってよかったなと思っていただけたら嬉しいです。写真集も、食い入るように見るというよりは、気分転換のつもりでページをめくったり、折りに触れて何度も見ていただきたいと思っています。
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- 今後の創作活動の目標について教えてください。
- J:
- 写真集は5冊めになりますが、こんな感じで定期的に新作を発表していきたいですね。誰にでも出会えるもの、見ようと思えばいつでも見られるものを見つめているのが僕の写真だと思いますから、外国の方の目にどう写るのかは興味があります。今回であればイギリスの人とか。日本人の見方と違うかも知れませんから、見た時にどう思うのか、その意見はすごく聞いてみたいですね。そして今後、もし海外でも写真展ができるようになったら嬉しいです。
今城 純(フォトグラファー)
1977年、埼玉県生まれ。日本大学芸術学部写真学科卒。横浪修氏に師事後、2006年よりフリーランス・フォトグラファーとして活動を始めた。数多くのファッション誌やアパレル広告・カタログ、CDジャケットなどを手がけている。写真集に「TOWN IN CALM」「ATMOSPHERE」「over the silence」があり、10年2月、GALLERY SPEAK FORにて写真展「over the silence」を開いた。
「earl grey」展についてはこちら
http://blog.galleryspeakfor.com/?eid=574
今城純さんの商品はこちら
http://www.galleryspeakfor.com/?mode=grp&gid=344202