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大山美鈴 | Misuzu Oyama

いくつものモチーフがぎっしり画面上に登場し、ファンタジックに躍動する、カラフルな水彩画。大山美鈴さんの絵は古風な幻想絵画に見えますが、ひとつずつプロットを作家のように構築した後で一枚の絵の中に描きこんでいくという、「ストーリーテリングする絵」なのです。女の子ならずとも、じっくり見入ってしまうキラキラした絵の深さもさることながら、アメリカの出版社から絵本をリリースするなど、発表活動もとてもユニーク。ヴィジュアル系ロックバンド「メガマソ」のCDジャケットデザインを手がけている才人としても知られています。そして、これまでの自身のキャリアを総まとめするべく、GALLERY SPEAK FORにて「rabbit hole library」展を開催することになりました(2012年2月3日から15日まで)。絵を描き始めた少女時代の思い出や、影響を受けてきた文学やアートなどについて、ギャラリーを訪ねていただいた大山さんに、詳しくお聞きしてみました。

photo:Kenta Nakano


 

下絵の前に、綿密なお話づくり

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とても密度の高い絵ですが、どうやって描くのですか?

大山美鈴(以下、M):
細かいところまで全部シャープペンで下絵を描いてから、水彩で塗り絵みたいに塗り分けて描いています。下描きの前のプロセスも大切なんです。まず、人物や背景の設定まで細かく決めたストーリーを作ります。それからモチーフや構成物の配置ラフを描いて、さらに細かく鉛筆で埋めながらアレンジを加え、そこで一回完結。次の水彩の作業はパズルに似ていて、隣り合う色が被ったりしないように、全体のバランスもとりつつ埋めていく感じです。下描きの時はいろんなことを考えながら描いているので、音が聞こえちゃうと描けないんですが、塗りの時は音楽がないとダメなんです。きっと違う脳を使っているんですね。費やす時間は絵によりますが、「ゆうまだきらら」という幅147.5センチの大きな絵の場合、約4か月もかかりました。

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もとになるストーリーは、どのようにして作るんですか?

M:
ふだんから、思いついたことを全部メモにとる習性があるんです。読んでいる本から想起したり、その時の心境やアイディアとか、これとこれはこうリンクしているんじゃないかとひらめく瞬間があって、そこから既存の物語に当てはめたり自分でアレンジを加えています。最近は、現代の東京にいる自分を意識することが多くて、自分の好きなものをあえてモチーフに入れるようにしています。ネオンとか。うちの銀ちゃんというサバトラの猫は、ほとんどの絵に登場していますよ。一番影響されているのは、ミヒャエル・エンデ。「不思議の国のアリス」もすごく大切です。グリム童話の類いもそうですが、そういうお話は小さい頃からずっと私の頭の中で、世界の根源みたいに存在していますね。

少女時代の読書感想画が入り口に

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なぜ絵の世界に入ったのですか?

M:
私が3歳のころ母親が、感動を何かに残させたいと絵日記を描かせたんですよ。小学校に入ると読書感想画を描くようになりました。その習慣から、絵を描くことは非常に身近でした。でも絵の道に進もうとは思っていなかったんですけれど、大学生活も残りわずかになって、普通に就活しようかと迷っていたら親の大反対に合いまして(笑)。親孝行をするというなら遠回りしないでもっと才能を伸ばしたほうが早道だからと。親としては作家の道をと思っていたようですが、私としては本を一生書いてゆくのは無理だなと思って。そしたら日常的にあって、好きかどうか意識したことはなかったけれど、絵の道を選ぶことにしたんです。学生時代に、バンドやっている子のジャケットを描く機会もあったので、それもいいかもと思えたんですね。その子は10年経つ間にメジャーデビューして、今はエイベックスでメガマソというバンドをしています。歌詞の世界観が似ていて、私が絵で描いていることと同じところを見ている気がする。今もときどき組んでお仕事しています。

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絵本も一冊、出版されていますね。

M:
一時期、CDジャケットや本のデザインの道に進もうかと思って持込みに回った時期もあったんですが、「(音楽に)世界観が合っていないと難しい」と言われ、出版社にも「自分で自分の世界を作っていきなさい」と言われました。それならと、自分で絵本「よるまちめいろ」を描くことに。あの本をまとめられたことで、だいぶ自分の道が定まった感じがしましたね。

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影響を受けた画家、尊敬する画家などは?

M:
マルク・シャガールに似ていると言われるんですが、実はそんなに好きだなと思って見ていなかったんです。でも伝記を読んだら、サーカスの絵をよく描いていて、綱渡りの不安定な感じの表現を好んで使ったと書いてありました。そこに私にも通じるものを感じてちょっと好きになりましたね。それから、ジョルジュ・スーラのサーカスの絵は好きです。エロール・ル・カインという絵本作家さんも。私と全然違うけれどこういうふうに描きたいというのは、宇野亜喜良さんとか、すごく少ない配置でものをポンと置いて決まる人。私はできないんですよ、天秤で重りを2個だけのせるみたいなこと。いいなって思うんですけど、私はひたすら載せて、まだバランスとれないからこれも、これも…と全部のせた状態でようやくバランスがとれるので(笑)。

一冊の本のように、絵を楽しんで

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今回の展示「rabbit hole library」は、どう内容になりますか?

M:
今までは展示する場所や時期に合わせたり、空間全体を作ることに重きを置いてやっていたんですが、今回はGALLERY SPEAK FORが広いということもあって、今まで約10年間で描いてきたアーカイブを全部出します。自分の足跡や変遷が見られると思うので、自分でもとても楽しみなんです。タイトルは、アリスのお話からとりました。ギャラリーが半分地下なので、アリスのイメージと重なったというのもあるんですが。アリスのお話って、大事なのはウサギの穴の部分じゃないかと思っているんです。実は全部のストーリーがあの穴の中でアリスが見た夢かも知れないと。ウサギ穴の中に今までの人生、アーカイブは置いてあるんだよ、というイメージで、自分の絵を置きたいと思っているんです。

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自分の絵を、どんなふうに楽しんでもらいたいですか?

M:
もちろん見て楽しめるものだとは思うんですけど、一枚の絵の中にお話があるということにこだわっているので、本を読むように、眠れない夜とかになんとなく見ていただきたいですね。中に逃げ込む、というか。私は「ウォーリーをさがせ!」が好きなんですが、ウォーリーって探す以外にサブイベントがいろいろあるじゃないですか。あんな感じでもあるし、またはエンデのお話のように別のお話につながりつつ本筋がある、そんな絵だと思っているんです。ぜひ持ち帰って、いろんなお話を探してじっくり読んでいただきたいですね。立体の絵もあるんですけれど、それは自分でも気に入っている作品なので、特に注目していただけたら嬉しいです。

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近い将来の目標や、夢などがあったら教えてください。

M:
こういう作家になりたいとか、すごく先の構想って何もないんですよ。ただ作りたいものやアイディアメモはすごくいっぱいあります。常に、次の次に作りたいものがあって。一枚ずつの制作に時間がかかるので順番待ちの状態なんです。それを一個ずつこなしていきます。ずっと先の目標を決めて途中で後悔するより、ひとつずつ好きな選択を積み重ねて納得したいんです。そして、今までとは違った新しいこともしてみたいですね。お洋服も好きなので生地の絵も描いてみたい。今回の展示では、掛け時計やトートバッグ、トランプデザインのオリジナルポストカードセットなど、私自身が欲しいと思うものをいろいろ作りました。あまり数がなくて早いもの順になってしまうのですが、かわいいと思うのでそういう雑貨もぜひ手にとっていただきたいです。

大山美鈴(アーティスト)

1982年、東京生まれ。慶応義塾大学文学部在学中より絵を描き始め、卒業後に本格的な創作活動を開始した。以後、「よるまちどおり1丁目」(2007年、gallery KOWA)、「タビーの東京プチ旅スタンプラリー」(2010年、原宿デザインフェスタギャラリー他)、「子どもとおうちメルヘン、美鈴とトウキョウメルヘン」(2011年、ドイツ東洋文化研究所)など、精力的に個展を開いて作品を発表。メガマソなどミュージシャンのCDジャケットやフライヤー、グッズなどのデザインも手がけている。著書に、絵本「よるまちめいろ」(2009年、米・Publishingworks)がある。

http://www.misuzu-oyama.com/


「rabbit hole library」展についてはこちら
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大山美鈴さんの商品はこちら
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